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賊大の葉柱についてを訊いて回っている存在があるらしく、だが、不思議と葉柱に直接の縁がある者へまでは近づかない。
“それって…。”
後辿りをされることで、ルイの側からは自分の正体を知られたくはないからこそ、守っている一線という奴ではなかろうか。だって 知りたいからこそ探っているのだろうに、質でも量でも一番に情報が豊富な手合いに近づかないだなんて不自然極まりない。
“あんまり大仰な“知りたい”でもないからかな。”
まだまだ片想いもいいところって段階だしィ、それに何だかあの人ってばァ、実は怖い筋のやんちゃなお兄さんでもあるらしいから。好奇心からでも嗅ぎ回ってんじゃねぇなんて怖いお声で怒鳴られるのはヤダしィ…なんてな、
“そんな女だってんなら、俺がタイマン張っての一刀両断してやらぁ。”
こらこら、勝手に盛り上がっての、額に青筋立ててるんじゃありませんてば。
「………。」
坊やがそんな不埒な想いを巡らせながら座っているのは、賊大構内の何面かあるグラウンドのうちの一角。新生フリルドリザード専用となって久しい、土のフィールド沿いのベンチの端っこ辺り。春季の開幕戦が一通り終わっての、さて。各校各チームの今年度の戦力やら陣営やらの、ある意味“1st impression”の一通りのご披露が済んだということでもあって。卒業や就職準備などなどでレギュラーの先輩が抜けた穴を、リザーブ組や新加入の顔触れでどう埋めているものか。新加入と言えば、高校生時代からの実力を注目されてた新人たちの大半は、対外試合ではまだ温存されていたケースが多かったが、仕上がりの実態はどうなのか。監督や主務にはそういった方面の資料もどんと集まっての、さあ秋の本番に向けてチームを作り上げねばと、心機一転、立ち上がっての駆け出す頃合いだってのに。
“む〜〜〜。”
葉柱のお兄さんらが主要なポジションを得た暁には、心強い参謀格としてのサポートを怠らぬ存在になるべき坊やが、すぐ鼻先に垂れ込めたものとはいえ、微妙にアメフトには関係が無さそうなものへ気を取られているなんて。そんなでいいのか、おい坊や。
“…坊やって言うな。”
だって気になるじゃんかよ。そいつに直接聞かれた訳じゃあない一美が、なのに“ルイさんのことを訊いて回ってる奴”って言ってた以上、そいつは、他にも該当者が居ないことはない諸々を…アメフト部のとか、都議の息子のとか、目付き悪くてバイク乗り回してるとかいう数多な要素を束ねての具体的に、葉柱ルイって目標を定めて絞っての聞き込みをしてるってことじゃんか。
“まだ一回生だってのに、インカレ関係者が注目するには早すぎる。”
高校生時代に“ベスト11”に選ばれたことがありはするけれど、チーム成績は飛び抜けて芳しかった訳じゃあない。初年度の秋大会こそ、1年部員ばっかの陣営で連勝したことを指して、無名だったものが…という驚きと共に“ダークホース”扱いされたものの。何しろ同じ世代にあの進清十郎やら桜庭春人やら、速撃ち天才QBに途轍もない俊足のRBなんぞがごちゃごちゃと同居したものだから、平均よりやや上程度の扱いをされていたに過ぎずで、
“そっちの線からじゃあねぇよな、やっぱり。”
アメフト関係者なら高校生時代の彼を知っていてこその注目とならねば話の順番がおかしい。だとして…こそこそと聞き込みをして、今更何を知ろうというものか。グラウンドに来て、本人の仕上がりようだの直に見学なさる方が、よほどに実もあるのではなかろうか。
“となると、ルイ個人への関心がある者ってのに限られる。”
そして、だからこそトンガリ坊やとしては落ち着けないのだ。練習着に着替えて準備運動なぞ始めている葉柱の、それは大きな背中を眺めやり、
「〜〜〜。/////////」
手足も長い、ずんと高めの上背に、ごそりと大きめ、Tシャツタイプのそれを着て。なのに…中身が泳いでの“衣紋掛け”みたいになってはない、筋骨の充実ぶりの何とも見事なことか。肩や二の腕、前腕、胸板は言うに及ばず、腰も尻もがっつり逞しいし。それでいて暑苦しくもムサくもないのは、動きの鋭さや柔軟性が利いているから。表情の鋭さやきびきびと冴えのある身体さばきに加えて、動かないときは泰然と、威容を保っての凛としているその姿勢がまた、彼へとますますの男ぶりの良さを加えてやまず。
“このガッコのそれも体育会系で、これに惚れなきゃ誰に惚れんだ。”
クラブ通いのヤサ男が趣味だってんなら、畑違いのお生憎、目もくれないでいたってしようがないし、そんなんが好みな姉ちゃんが、何を間違えても ややこしいちょっかい出すようなタイプではない。…って、今更ではあるけれど、ヨウイチくんてば相手は女の人って決めてかかってやいませんか? アメフト関係じゃないならば、どっかで叩きのめした相手からの喧嘩の報復とか、そうそう、父上の政治家としての対抗勢力による、新年度にあたっての資料集めとかいう可能性だってあるのでは?
“…そういう手合いなら、俺は手ぇ出しちゃいけないんだよ。”
さっきのご本人様のお言いようではないけれど。そういう手合いだとしたならば、それはルイが自分で処理すること。自分の手で方をつけるのか、それとも…父上絡みのことであるなら事務方じゃあない政治活動方面の秘書に報告しておくか。そういった判断はあくまでもルイがすることだし、それへのお邪魔をしちゃあいかん。だって、
“ルイの侠気(おとこぎ)を通させるのが一番大事だもん。”
伊達に4年またぎのお付き合いを重ねて来た訳じゃあないからね。時々“馬鹿だなあ”と呆れさせられるほど、葉柱は不器用ではあるけれど。それって…面倒も厄介もどんと引き受けられる彼だからこそ出来るよな、若しくは彼なりの納得あっての“不器用”な対処だから。
“…。”
立ちはだかるものは、その身がずたぼろになってでもその手で薙ぎ払っての排除にかかるし、心配させんなと直に言う。誰かを通してとか、遠回しな手配をしてとか、そうすることで“俺も無事だから気に病むな”と間接的に伝えられる…なんてな、気の利いたことは思いもつけない。でも、それが彼の彼たる所以だ。スタイリッシュで怜悧なって運びじゃあなかったり、見た目カッコ悪くたっていい。後でとんでもない誤解や後塵がやって来そうな、何とも要領の悪いやりようでもいい。痛快だったり胸がすくよな、判りやすいものを選んでの…のちのちややこしいことになる。そんな不器用な彼が大好きだから、やりたいようにやらせるし、お邪魔も大きなお世話も極力焼かない方がいいのだと。最近、少しずつ身につけて来た坊やではある。…というか、
“…何だよ。”
坊やに引っ張り回されての騒動ってのも、山ほど体験させられてる総長さんではなかったかしら。そして、それらへの対処がまた、坊ややその知己のスペシャリストさんたちに比べれば…馬鹿正直な手順を踏んでいるにも関わらず、きっちり叩き伏せてしまえているお人じゃあなかったか。
“…。”
例えば、運動会に宝石泥棒が乱入した一件では、追っかけて来た犯人一味を見事なバイクテクでもってねじ伏せた。出会って間もない頃合いの、あの、機密チップを巡ってのどたばたでは、銃を向けられても怯むことなく、坊やを庇っての大殺陣回りをやってのけてくれた。
「………。」
あれって、どれにしても…坊やに有無をも言わさずの、相手へ降伏したって良かったはずだったのに。とっとと警察関係へ通報しちゃえば良かった事件だったあったよね。春の合宿で下着泥棒を取っ捕まえたあれとかさ。それじゃあ坊やの気が済むまいと、そうと思ってくれての骨折りを、きっちり付き合ってくれた葉柱であり、
“…うっせぇなっ。”
ともかく、と。一丁前にも“深慮に入っております”と言わんばかりに、お胸の前にて細っこい腕をば組み直し、
“ルイ本人から発してること以外での、下っだらない関心から寄って来やがる気配だってんならば、俺様が容赦なく排除してやるまでだ。”
何だか穏やかならざることをその小さなお胸へと転がしながら、
「よーし、手初めにランニングにかかるぞ。」
用具を準備しの、身体ほぐしを済ませのした面々が、街ではトグロもクダも巻いちゃるぜというよな態度で通す“やんちゃ者”にしちゃあ ダラケもせずのきびきびと、軽いジョギング歩調のランニングに入ったのを眺めやってる、本日は臨時雇いの小さなコーチ殿だったりするのであった。
◇
途中から遅ればせながらに先輩さん方も合流しての、初夏の午後を目一杯使った機能トレーニングは、いい汗かいての無事にお開きとなり。一応は現在のキャプテンである三回生の野牛みたいなお兄さんが、ちらりと目配せして来たものへ、葉柱が目礼を寄越して来たのが合図で、
「よっし、今日はこれで解散っ。各自、クールダウンを怠るなっ。」
「オスッ!」
全員参加の練習がお開きとなる。サーキットトレーニングにと使ったラバーベルトだの縄ばしご(ラダー)だのや、籠いっぱいのボールにネットフェンスに、タックル用の過重マシンなどなどは。出したのは一回生だが片付けるのは当番制で、本日のお当番である二回生のグループが少々不満げに手掛けていたが、
「○○○先輩?」
「ああ"?」
疲れもあっての、ついついぞんざいな声を返せば、肩越しのどこにも人の姿はなく。あれれと視線を下げれば…デカブツな彼の腰あたりという高さにお顔の来る小さな坊やが、柔らかな金の髪を後光のようにけぶらせの、天使のような笑顔で“にこりんvv”と笑って見上げて来ており。確かに可愛らしいけれど、それと同時に恐ろしい相手だからと、即座に思い出したのだろう、
「あ…や…えと、なななな何でしょう。」
山のように大きなガタイの、どこからそんな細いお声が出るのやら。し直すお返事もどこかしら堅い。それへと尚の笑みを濃くしつつ、
「こないだのお当番のとき、用具室の戸に鍵をかってなかったよ?」
このところ金属泥棒が頻発してるし、あれってどんな意外な金物が持ってかれるかも判らないからね。まだまだ子供の、カナリアみたいな軽やかなお声で、なのに中身はまざまざと現実的な、そんな言いようを並べた坊やへ、
「ははは、はい。ちゃんと戸締まりしときます、だぜ。」
びしっという音がしそうなほどの直立不動という姿勢になったのはともかく。普段からも、余程の目上に、しかも決まった口利きしかしたことがない身だからだろか。こんな小さな存在への丁寧な口の利き方というのが、今一つ判らないままの笑えるお返事をしていただいて。も一度にっこり笑った小悪魔様。小さな肩をひるがえすと、グラウンドからの出口にて待っていた、間違いなくの秋から主将の座に就く黒髪のお兄さんの傍らまでを“ぱたぱたぱた…っ”と翔ってく。あんな小さな坊やなのにね、ついつい身がすくむのは上級生の誰しものことで。刷り込みってのは恐ろしいと今更のように溜息ついて、注意を受けた先輩さんが、その視線を仲間内へと戻したのと入れ違いのように。別な誰かさんの視線が、そんな一回生の皆さんへと向けられていたりして…。
アメフトに於けるテクの点ではまだまだ発展途上だが、体力だけなら標準以上。そんなやんちゃざかりのお兄さんたちなもんだから、激しくも厳しいトレーニングでみっちりと絞られたはずでも、女の子の“デザートは別腹vv”よろしく、これからどっかに繰り出すだけのスタミナは有り余っているらしく。着替えながら既に沸いてる会話に割り込み、
「…現金なもんだよな。」
すかさずのように半目になっての呆れたと言い放った坊やへ、
「なんだなんだ、棘のある言い方だな、そりゃ。」
そうそう小さなガキに言い負かされてばかりはいませんと、銀髪頭の二枚目が勇ましくもつっかかったものの。
「だってよ。
そんな元気があるんなら、な〜んで耐久走の記録 もちょっと伸びねぇかな。」
ギンってばいっつもラスト1周で、見る見るペース落ちるじゃんかと。一回生だけに限っても20人近くはいる全員分を、ちゃんと個別に、能力の現状まで、細やかに把握出来てるところが恐ろしい、小さなコーチ様であったりし。
「う…。」
持ち出されたものがアメフトがらみで、しかも動かしようのない事実なだけに。崇拝してやまぬ総長様の耳目がある場で反駁も出来ないところが辛く、
「…判ったよ。」
次回はもちっと粘りましょうぞと、いやいやながらも約束したところで、
「そんくらいにしとけ。」
どっちへの窘めにも聞こえるような言いようをして。聞こえてはいたろうが敢えて気のないお顔で着替えていた黒髪の総長様が、その話は終しまいと宣言してやり。喧嘩腰のやり取りが起こったことで、失速しての尻すぼみ。上がるか下がるか微妙なそれだったテンションが、ある意味でリセットされての和やかに盛り返す。金髪の小悪魔コーチ様は、葉柱のお兄さんのジャケットのお袖へとまとわりつくことで、チームの関係者から葉柱の関係者へと立場を変え。まだまだ上背には遥かな差があるお兄さんのお顔を、その懐ろから見上げて“えへへぇvv”なんて微笑って見せれば。大きな手が降りて来て、もしゃもしゃと柔らかな髪を撫でてやり、
「帰るか。」
「うんっ!」
相手のお目々を見下ろしての、なんて甘い言い方をしますか、総長様ったら。
「あれが凄げぇ別嬪相手なら問題ねぇのにな。」
「それか…いっそのこと、ルイさんチのシェルティのキングとか。」
「そっか? 別に違和感はねぇが。」
「単に見慣れただけだろ、そりゃ。」
「けど、坊主も憎まれ口を利かなきゃあ一端の美人なんだしよ。」
「でもよ、相手がああもガキだと、やっぱこう、
男の色香ってか、ワイルドな精悍さが引き立たねぇってか。」
「あれじゃあ、
初めてのおつかい“お父さんの職場までお迎えに来ました篇”だもんよ。」
一応のこそこそと声を低めての、それでも…大胆にも好き勝手言ってる面々へ、
“来週のサートレは負荷を5倍に増やしてやろう。”
デビルイヤーの先っぽををひくひく震わせた坊やが、その胸の裡ウチにてそんな恐ろしいことをば決めたのも、届きはしなかったようだけれど。(笑) そいじゃあ先に行くぜと、着替えだけ入れた布袋を肩へと引っかけ、バイクを停め置いた駐車場へと向かうコースへと、坊やと二人、並ぶようにして歩みを進めかかった葉柱のお兄さんだったのだけれども。
「…っ。」
ふと。その足を止めたのは、何かしらの気配を嗅ぎとったから。いくら喧嘩慣れしている凄腕とはいえ、異論もあろうが…葉柱はあくまでも一般人であり。練達の武道家じゃあるまいし、姿さえない相手の殺気や気配が瞬時にして嗅げたって訳じゃあないのだが。何ということもなくの視線を通過させた視野の中、違和感を覚えてのアラームが微かに鳴り、あれれぇ、今なにか引っ掛かるものが居ませんでしたかとの自覚反応が起きた、というところだろうか。
――― しかもそれが、誰かの顔だったから。
双眸というパーツに対する反応は、どんな生き物であれ鋭いその証し。さしもの葉柱でも、いやさ葉柱だったからこそ、鋭くも気がついて立ち止まったということか。そして、
「誰だっっ!!」
これだけの状況付帯説明を蹴っ飛ばし、やっぱり同じものへの反応を…さすがはお子様、柔軟性が違うということか。もっと素早く察知しての、それからの一連の動作のまま凄まじかったこと。
「…っ。」
やや体を捩るようにしてその小さな背中に片方の腕を回し、羽織っていた浅い色合いのオーバーシャツの裾へと小さな手を突っ込むと、その下の半ズボンの腰へと差してたらしき何物か、途轍もない早業で引き抜いて前へと持って来るまでにかかった所要時間は、3秒もなかったのではなかろうか。しかも、
「あ。こら、おいっ!」
葉柱がハッとして止めにかかったが、最初から“撃つ”ところまでもを1セットにしていたらしい、そこのところがやっぱり恐ろしい小悪魔坊や。小さな手を両手がかりにしての台尻を掴みしめ、体の前へじゃきり構えたは、シリンダー式小型拳銃のコルトパイソン2.5インチ。腰を落としての脇を締め、肩には力を入れないで、肘はゆるめずの…
ぱんっぱぱんっ、と。
乾いた銃声が短くの3発。立て続けに鳴り響いて、辺りに硝煙の香りが立ち込める。ちょっと待てよ、実弾か? まさかそんな、いくらあの坊主でもそこまでは。いや判らんぞ、実弾の1発や2発、自分で作っちまうかも…等々と。すぐ背後の部室の窓辺へ鈴なりになった部員たちから、どえらいことを見込まれている坊やも坊やなら、
「び………っくりすんじゃないのよっ!」
坊やが狙った方向とは微妙に違って、すぐ横手に立っていたポプラの木の陰から。肩で息をしつつの出て来た人影がある。
「そりゃあ、こんなところで息をひそめて伺ってたこっちも悪いんだろうけど。そんな物騒なもんで狙おうとしていただなんてっ!」
驚きの度が過ぎての逆ギレか、一気にまくし立てたその人物は。ずかずかと歩み寄って来ると、まだ銃を構えたまんまな格好の坊やの肩へと掴みかかると、
「大体何よ、そんな危ないもんをこんな小さな子供に持たせて。いくらあんたが都議の息子でも、こんなボディガードなんてありなの?」
つけつけという物言いは葉柱へと向けてのものであり。そして、
「…あんたは。」
葉柱には重々見覚えがあった相手ではあったが、
「何で俺の親父が都議だって知ってんだ。」
「葉柱なんて珍しい名前だからよ。」
「それだけじゃなかろう。」
三白眼をちょいと眇めての睨みつければ、怖いから…というよりは気迫に負けたか、肩をすくめて微笑った彼女、
「こないだの合コンで写メで撮ったの見せて回って、あんたのことを探してたの。そしたら、まずは誰もが“葉柱都議の息子の”って言ってた。」
うっとたじろいだ葉柱だったのは、薄々判ってはいたものの、それが世間から見た…自分の一番上に張られている肩書なのだというのを改めての思い知らされたため。そんな総長さんに気づいているやらいないやら、
「わたしとしては、此処でのあんたの居場所を知りたかっただけなのにね。アメフトのっていうのが出て来るまでに時間が掛かった掛かった。何よ、隠してたの? 部員だってこと。」
「………。」
ますますの追い打ちを掛けてるその人は、
「…あれって。」
「おお。」
「あの晩の…。」
やはり窓辺へ張り付いたままだった、元カメレオンズの面々が…酸欠になるんじゃなかろうかってほど、その口をあぐあぐのパクパクと忙しなくも動かしてまで、プチパニックを引き起こしての驚いているのも無理はなく。そして、
「離せって言ってるだろうがっ、こんの ばかぢから女っ!」
本格仕様のメタルボディという、持ち重りのするモデルガンを、小さな手ごとの鷲掴みにされた妖一が。女性の手なのになかなか振りほどけないことへと業を煮やしての怒鳴って見せれば、
「な…っ! 言ったわねーっ!」
子供相手でも容赦しませんとの威勢のよさにて、
「こんな小さいうちから拳銃オタクが ナマ言ってんじゃ…。」
怒鳴り返しかかった彼女の声が、途中でぶつりと途切れる。しかもしかも、
「…え?」
日頃の天使のようなと形容されまくりなお顔を、今は悪鬼のように引きつらせての。咬みつかんばかりの形相になって睨み返そうとした相手へと、妖一の方までが…その威勢に急停止をかけてしまい。それから…二人揃って我に返っての曰く。
「何であんたが此処に居んの?」× 2
「知り合いか、お前ら。」
それも声がハモったくらいのと言わんばかり。人騒がせなと、一番の間近にいた葉柱が渋面を作ったのは言うまでもなかったが。
「…それだけなのか、総長。」
「まだ言うことはあるだろう。」
一美や近藤、足塚がきりきりと身悶える。だってそのお姉さんは、先日のコンパで葉柱が珍しくも屈託なく話してたお嬢さんだし。しかもその上、そこの坊やにどこか似ていて。だから気に入ったんだろかと、やり手ババ…もとえ、幹事だった銀も“そこまで深みにはまっていたとは”と唖然としたのも記憶に新しいお相手ではないかいな。すらりと細い御々脚に張りつかせたソフトデニムのサブリナパンツに、ヘソ出しカットソーと柄つきながらもシースルータイプのボレロという、夏先取りの涼しげないで立ちがお似合いの、いかにも今時の女子大生というお嬢さんだってのに。
「ヨウコ叔母ちゃんは、俺の父ちゃんの妹だ。」
「この子はあたしの兄さんの子供だから。」
これぞ血縁の奇跡か、ほぼ同時に言ってから、
「…叔母ちゃんはやめてって、いつも言ってるでしょう?」
「何だよ、叔母ちゃんには違いないじゃんか。それとも叔父ちゃんか?」
「腹立つわね〜〜〜っ!」
「大人げないぞ、叔母ちゃん♪」
「あたしの小さい頃そっくりの顔でそんな憎まれ言わないでよねっ!」
「そっちこそ、俺が大きくなったらそんなになるのかと思うとがっかりだっ!」
「言ったわねっ!」
「言ったがどうしたっ!」
力みに張っての切れ上がった目許や肉付きの薄い口許。少しほど先の尖り気味の耳に、淡い金茶なんていう珍しい色合いの瞳。奥底に何かしらの光を飲んででもいるかのような、深みのある白い肌に、となると彼女の側も染めてる訳じゃあないらしいのかもな、淡い金褐色の髪といい。ガンつけ合うタイミングも迫力も、こうまで重なるのは珍しかろうという息の合いようであったりするしで。
「そっかー、親戚かー。」
「名前も似てんのなー。」
何かもう、びっくりするのに疲れたと言いたげな。投げやりな態度は辞めたまえ、フリルドリザード一回生の諸君。(気持ちは判るが…)
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*………もちょっと続きます。(苦笑) |